包丁の握り方もわからなかったぼくが、料理を届けるまで
苦手だったこと、悔しかったこと。その遠回りが、いつか誰かに届く力になるのかもしれない。
「得意なことをやっていこう」
そんな言葉を、これまで何度も聞いてきました。
もちろん、それは大切なことだと思います。得意なことは続けやすいし、人の役にも立ちやすい。
でも最近、僕は少し違うことも思うようになりました。
もしかすると、苦手だったこと。
悔しい思いをしたこと。
うまくできなくて、恥ずかしかったこと。
そういう経験を乗り越えてきた道のりこそ、自分の生きる糧になるのかもしれない、と。
ぼくにとって、それは料理でした。
高校生のころ、進路相談の紙に「料理人」と書いたことがあります。
いつかコックさんになりたい。
料理をする人になりたい。
そんな憧れが、胸の中にありました。
けれど、そのことを親に伝えたとき、
ぼくはこっぴどく叱られました。
理由は、とても単純でした。
僕には、料理をした経験がほとんどなかったからです。
包丁を握ったこともほとんどない。
台所に立って、何かを作った経験もない。
それなのに「料理人になりたい」と言うなんて、何を言っているんだ。
きっと、そう見えたのだと思います。
たしかに、その通りでした。
ぼくは料理に憧れていながら、
料理を知らなかったのです。
社会人になってから、
僕は何度か人前で料理をする機会に出会いました。
小学校教員をしていたので、
家庭科の授業もありました。
宿泊活動では飯ごう炊さんもありました。
教職員の集まりで料理をすることもありました。
そのたびに、ぼくは思い知らされました。
包丁の握り方すら、よくわからない。
料理に憧れていたはずなのに、
実際には何もできない自分がいる。
それは、とても悔しい経験でした。
でも、その悔しさが、僕を動かしてくれました。
僕は料理教室に通うことにしました。
通い始めてみると、それが本当に楽しかったのです。
多いときには、
週に2回から3回ほど通っていました。
包丁の握り方。
食材の扱い方。
火の入れ方。
味の重ね方。
料理の段取り。
ひとつひとつを学んでいく時間が、
ぼくにとって大きな喜びになっていきました。
最初は何もわからなかったぼくが、
少しずつ料理の世界に触れていく。
続けていくうちに、
まるでスポンジが水を吸うように、
料理の知識や技術が自分の中に入ってくる感覚がありました。
気づけば、
ぼくは料理の世界にどんどんのめり込んでいました。
一人暮らしをしていたころのキッチンは、
とても狭いものでした。
コンロはひとつ。
まな板は横に置けず、縦にしか置けない。
食材を広げる場所も、ゆっくり切る場所もほとんどない。
料理をするには、あまりにも小さな台所でした。
それでも、料理への思いは弱まりませんでした。
むしろ、
もっと料理がしたいという気持ちは強くなっていきました。
そして今、
ぼくは「薬膳厨房つきひ」というお店を立ち上げました。
営業はこれからですが、自分で育てた野菜やお米、地域の食材を使い、自分の手で料理を作り、それをお客様に届ける場所ができようとしています。
高校生のころに憧れていた「料理をする人」という夢は、ずいぶん遠回りをして、今の僕の暮らしの中に戻ってきました。
僕は、最初から料理が得意だったわけではありません。
むしろ、何もできませんでした。
人前で包丁の握り方すらわからず、悔しい思いをしたところから始まりました。
でも、だからこそ、料理ができない人の気持ちがわかるのかもしれません。
はじめの一歩が怖いこと。
台所に立つだけで緊張すること。
「自分には向いていない」と思ってしまうこと。
そして、それでも少しずつ積み重ねていけば、人は変わっていけるということ。
得意なことを伸ばすのは、もちろん素晴らしいことです。
でも、苦手だったことの中にも、人生を深く支えてくれる種が眠っているのかもしれません。
悔しさがあったからこそ、学ぼうと思えた。
できなかったからこそ、できるようになる喜びがあった。
憧れを捨てなかったからこそ、今の場所にたどり着けた。
苦手だったことを乗り越えた経験は、ただの成功体験ではありません。
それはきっと、同じように立ち止まっている誰かに届く力になります。
「最初からできなくても、大丈夫だよ」
そう言える自分になるための、大切な道のりだったのかもしれません。
僕にとって料理は、得意だったから始めたものではありません。
できなかったからこそ、憧れ続けたものです。
そして今、その憧れは、僕の暮らしと仕事を支える大切な糧になっています。
これは、せわしなく生きてきた自分が、
“暮らしを取り戻そうとしている記録”です。
“味わう暮らし”を一緒に取り戻す仲間になっていただけたら嬉しいです。









着々と進んでいますね👏
素晴らしい🙌
楽しみです🥰
いいね〜!
私料理苦手だから尊敬する!